【2012年/台湾・香港/110min.】
ピアノの才能に恵まれた盲目の青年・黄裕翔は、台北の大学に入学したのを機に
初めて親元を離れ、寮生活を始める。
新しい環境や同級生の心無い言葉に戸惑い、傷付きもするが、阿清というルームメイトとは気も合い
彼が結成したバンド、Super Music樂團のメンバーにもなる。
一方、小潔は、ジューススタンドでのバイト暮らし。
僅かな給金は母の浪費に消えるし、恋人にはふた股を掛けられるし、まったく冴えない。
そんな小潔が、ある日配達中、横断歩道で右往左往する裕翔を助け、ふたりは知り合う。
会話を交わし、夢を語り合う内、小潔は諦めかけていた大好きなダンスに挑戦しようと、一歩を踏み出す…。
2012年第25回東京国際映画祭、アジアの風部門で上映された台湾映画を観賞。
すでにいくつかの賞を受賞し、2013年2月に開催される
アカデミー賞の外国語映画賞、

台湾代表にも選ばれた話題作。

長編劇映画を手掛けるのは、これがお初。 出品人は、香港のお馴染み王家衛(ウォン・カーウァイ)。
家庭の事情で大好きなダンスを諦め、恋人にもふた股を掛けられ、悶々と暮らしている女の子・小潔が
ピアノの才能に恵まれた盲目の青年・黄裕翔と出逢い
ふたりそれぞれが葛藤し、挫折を乗り越え、夢への第一歩を踏み出す姿を描く青春成長物語。
具体的な説明は無いが、女主人公・小潔に父親の影は無く、どうやら母子家庭。
同居のこの母親の浪費癖が、小潔の頭痛のタネ。
母は“お得感”に滅法弱く、通販などで、美容アイテムを次々と購入。
小潔の僅かなバイト代は、母親が使うクレジットカードの支払いに消え
“働けど働けど我が暮らし楽にならざり”状態。
母は、小潔がもっと稼ぐよう軍への入隊を勧めるくらいだから(!)、小潔は自分の夢を追うどころではない。
しょーもない母親を見捨てず、辟易しながらも養い続けるなんて、台湾の子って親孝行。
親にあまり恵まれなかった小潔は、♂男運もよろしくない。 付き合っている男からふた股を掛けられている。
しかも、自分はダンスを諦めているのに、恋人の浮気相手は、彼のダンス仲間なのだから、遣る瀬無い。
こんな踏んだり蹴ったりの小潔が、もうひとりの主人公、
盲目でありながら自分が信じる道に邁進する黄裕翔に触発され、変わっていくのだが
実は裕翔の方も立派な聖人などではなく、悩み傷付く生身の人間。
目が見えないがために、同級生から心無い言葉を吐かれたり、仲間から外されたり…。
子供の頃、得意のピアノで一等賞を獲るも、他の子から「目が見えないから受賞できたんだ」と陰口をたたかれ
以後、コンクールへの参加には消極的。
そんな裕翔だから、心を許せ、支えてくれる小潔やバンド仲間に出逢えたことで、彼もまた殻を破っていく。

主演は、ダンサー志望の小潔に張榕容(サンドリーナ・ピンナ)、
実際に盲目のピアニストである黄裕翔(ホアン・ユィシアン)は
本名をそのまま役名に、台北の大学で音楽を学ぶ盲目の青年・黄裕翔に扮する。
張榕容は、テレビの偶像劇で見ると、すごく違和感が有るけれど、映画だと不思議と良い女優さんだと思える。
本作品は、所属する事務所、王家衛の澤東 Jet Toneが制作している関係で、起用されたのであろう。
作中、扮する小潔の父親について一切の説明が無いのは、彼女のガイジン顔に含みを持たせるため?
ダンスのシーンは、集中的に上半身を撮ることで、上手いこと処理されている。
黄裕翔という盲目のピアニストは、来日して演奏をしたことも有るらしいが
私は本作品を観るまで知らなかった。
作り込まない自然な演技で、きっと本物の黄裕翔もこういう可愛い人なのだろうと思わせてくれる。
ピアノを弾くシーンは、さすが圧巻。 鳥肌立つ。
クラシックばかりではなく、SM(Super Music)樂團のメンバーとして演奏する楽曲がまた良い。
バンドの仲間に扮するのは、怕胖團の閃亮、宇宙人の阿奎、大嘴巴 Da MouthのMC40。
特に裕翔のルームメイトでもある“阿清”こと朱自清に扮するおデブの閃亮が面白くて、
何度も笑わされた。

また、大嘴巴からは、すでに俳優として『敗犬女王』、『王子様の条件~拜金女王』等
何本かの偶像劇に顔を出している張懷秋(ハリー・チャン)も出演し、小潔を裏切るふた股男を演じている。
あと、♀女優陣で特に気になるのがふたり。
ひとり目は、小潔の母親に扮する柯淑勤(コー・シューチン)。 相変わらずのウラぶれっぷり(笑)。
ブン殴られてもヒモに貢ぐ愚かな母親に扮した
ドラマ『あの日を乗り越えて~那年、雨不停國』同様、

気のいい下流なオンナがハマり過ぎ。
小潔の父親は、飲み屋で知り合った行きずりのアメリカ軍人かしら、…と想像が膨らむ。
ふたり目は、小潔のダンスの先生に扮する許芳宜(シュー・ファンイー)。
元マーサ・グラハム舞踏団の首席ダンサー。
プロのダンサーは、姿勢も筋肉の付き方も、ちょっとした指先の動きも、普通の人とはまったく違うから
ダンサー役はダンサーが当たらないと説得力に欠ける。 許芳宜、素敵です。
感動を押し付けるドラマティックな演出が有るわけではないのに
黄裕翔がピアノを弾くシーンを観ているだけでも、ぐわぁぁーーーっと下から突き上げてくるものが有り
目頭が熱くなるのはナゼ…?!
『光にふれる~逆光飛翔』というタイトル通り、
光に包まれた柔らかな映像が良いし、
音楽も良い。


物語のラスト、天才ピアニスト黄裕翔は、プロとしての道を歩み始めているが
小潔の方は成功者になっていないのが、リアリティ有り。
それでも悲劇ではなく、爽やかな余韻を残すピュアな青春映画の秀作。 難を言うなら、毒が無さ過ぎる。
あまり観客を選ばず、幅広く受け入れられそうだから、日本で一般劇場公開されても不思議ではない。