【2011年/イタリア/83min.】
ローマで中国語通訳として働くガイア・ルイージの元に、急な仕事の依頼が舞い込む。
内容を明かされず、不安もよぎるが、数時間で2000ユーロという高額報酬に引かれ
ガイアはこの仕事を受けることに。
迎えに来たクルティという男に、目隠しされたまま連れて行かれたのは、薄暗い密室。
そこで彼女を待っていたのは、“王(ワン)”と名乗る中国語を話す地球外生物であった…。

日本では、「ヨーロッパで物議をかもした」、「話題騒然」と宣伝されていたので
自称映画好きのイタリア人に観たか尋ねたら、「それイタリア映画?知らない」と言われた。
まあ良い。 東京で短期間限定の公開だったので、慌てて駆け込み鑑賞。
物語は、ローマで捕獲された中国語を喋る宇宙人・王(ワン)さんと
王さんを取り調べるイタリア人との緊張感あふれるやり取りを追う異文化摩擦
SFサスペンス。

宇宙人が中国語?ナンで?!と誰もが抱く疑問は、取り調べの中で、王さんの口から明かされる。
地球人と交流するため、地球上で最も使われている言語
中国語を学んだが

たまたま漂着したのが
イタリアで、せっかくの中国語が通じないことに気付いたらしい。

私自身、中国語とイタリア語それぞれに何らかの関わりが有り
使用人口の多い言語と少ない言語の差を、身をもって感じているのが、本作品に興味を抱いた一番の理由。
あとこの作品のウリと言ったら
低予算イタリア映画に中国語スピーカーの宇宙人を登場させるというB級感に尽きるでしょー。
だが、B級おバカ映画のつもりで観始めると、途中から様子が変わってくる。
宇宙人とイタリア男の対立は、拡張する中国勢力と、それを脅威と感じ、拒否反応を示す西洋世界に重なる。
その間に立つのが、両者に精通する人物、通訳のガイア。
イタリア男クルティは、「相互理解のため、交流のためにやって来た」という王さんの説明を
頭ごなしに否定し、王さんを拷問にかけるけれど
ガイアはそんなクルティを非難し、王さんの肩を持つようになる。
これは日本にもそのまま置き換えられる状況で、私の場合はガイアに感情移入。
相手を知らない、もしくは知ろうとしない人に限って、思い込みや偏った思想から、無駄な暴挙に出るもの。
逆に、相手を知ると、それまで抱いていた負の印象が、誤った思い込みだったと気付くこともある。
世界の勢力図が書き換えられつつある過渡期の不安や混乱を
ガイアの目線で冷静に捉えようとする作品なのかと思いきや
最後に王さんがボソッと吐くひと言で、「
へっ…(絶句)」。 これ、どう理解すべき…?!

出演は、中国語通訳ガイア・ルイージにフランチェスカ・クッティカ、
王さんを監禁し、取り調べる謎の組織の男クルティにエンニオ・ファンタスティキーニ。
フランチェスカ・クッティカという女優さんは、知らなかった。
試しに覗いたイタリア版wikiにも出ていなかったので、あちらでも駆け出しの新人なのかも。
中国語通訳という役なので、恐らく中国語をまったく喋れないであろう彼女の台詞をどう処理するのか
鑑賞前、興味を持った。 そうしたら、吹き替えではなく、中国語の台詞を覚え、本人が喋っている様子。
もしかして本国では、「あんなに沢山の中国語の台詞を覚えるなんて、フランチェスカ凄い!Brava!」
と絶賛の嵐かも知れないが、これがかなり酷い…。![]()

彼女が話の頭によく付ける呼び掛け「王先生(Wang xiansheng)」以外は聞き取り困難。
他によく出てくる単語“家(Jiā)”は
イタリア語で“already すでに”を意味する“già”に置き換えて発音するクセがあるようで
声調があまりにも違い、イラッとさせられる。 これで2000ユーロもらえるなんてボロい商売、私もやりたい。
自宅でくつろいでいる時も、胸に大きく“財”と露骨に書かれたTシャツを着ていたのは
やはり常日頃から
金運アップを念じていたのか、ガイア。

一方、宇宙人・王さんの台詞は、リアル中国人が当たっている模様。
Li Yong(リ・ヨン)とクレジットされている。 李勇?李永? イタリア在住の華人だろうか。
気になる王さんの容貌は、こんな感じ (↓)
かつて、E.T.を「可愛い♪」と言う人の気持ちが分からなかったが、王さんはどうか。
確かにE.T.よりはしおらしい佇まい。
子犬のような黒目勝ちのつぶらな瞳で請うように見詰められると、同情心も湧いてくるが
私の感覚では“可愛い”とは言い難く、E.T.同様、充分グロテスク。
手足がニョロニョロ何本も生えていることから、
タコやイカに似ていると表現する人も多いけれど

色だけ見ると、メタリックに青光りしていて鯖のよう(王さんも不飽和脂肪酸を多く含んでいたりして)。
古代エジプトのファラオのように整えられた髪(?)が、興奮するとエリマキトカゲのように開くのが特徴的。
B級には違いないが、期待していた抱腹絶倒の超おバカ映画とは違った。
ただの説教臭いイイ話に終わらせなかったのは、それなりに評価するが
あのラストはやはりどう捉えて良いものか分からない。 かなりブラック。
日本人は見過ごしがちだろうが、王さんが発見された場所が、黒人女性アモニーケの家だったことも意味深。
現実のイタリアで、もう随分前から現在に至るまで、中国人以上に懸念されているのは
アフリカからの移民なのだから、一体どういう皮肉…?
せっかく“中国語を喋る宇宙人inイタリア”という素晴らしく馬鹿げた発想が有ったのだから
下手にメッセージなんて込めずに(←そもそも監督にそんな思惑なんてなかったのかも知れないし
世間で物議を醸すよう故意に意味深に撮ったのかも知れないし、真相は不明)
とことんお馬鹿に徹してくれた方が、より私好みの作品になった気がする。
この作品を観たシアターN渋谷は、ひと月後、21012年12月2日に閉館。
私がここでよく映画を観ていたのは、まだユーロスペースだった頃で
シアターNになってからは、もしかしてあまり利用していないかも。
そんな私が言うのもナンだが、東京からまた一館ミニシアターが消えると思うと、ちょっと淋しい。