貴重な文物が第三者へ渡ってしまわないよう保護する法律もようやく整い
来年2014年、東京国立博物館と九州国立博物館を使い

2012年、北京の故宮博物院展が開催された際は、私も上野に足を運んだが (→参照)
国立博物館の前には、今まで見たことの無い大行列ができ、入館するだけでもひと苦労。
特に、お宝中のお宝、<清明上河圖>を最前列で観賞したければ、数時間待ちの覚悟が必要であった。
2014年、台北からどの文物が日本にやって来るのかは、まだ不明。
もし万が一、東坡肉にソックリな“肉形石”か、白菜を模した“翠玉白菜”なんかが来てしまったものなら
上野は人の波にのまれてしまうであろう。
お肉も白菜も、日本では<清明上河圖>以上に有名で、美術に無関心な人でも知っているから。
上野で数時間並ぶくらいなら、台北に飛んでしまった方が、むしろ時間の節約になったりして。
故宮博物院は、台北観光の最重要スポットのひとつだから、混んではいるけれど
来年の上野よりはゆっくり鑑賞できるかも?
★ 國立故宮博物院
そもそもは、愛新覺羅溥儀が紫禁城を追われた後、
1925年、清王朝が所有していたお宝を宮殿内で一般公開したのが、故宮博物院のはじまり。
その後、日本軍の攻撃を避け、美術品は中国各地を転々とするが
国共内戦で蔣介石率いる中華民国政府が不利になると
お宝の内約60万点は中華民国政府と共に台湾へ運ばれ
1965年、それらを公開する國立故宮博物院が台北にオープン。
御本家・北京の故宮博物院より所蔵品の質が高いと言う人も多く
開館以来、台北を訪れる外国人にとっても見学必至の観光スポット。
2001年には改装工事が始まり、館内が一部閉鎖されていたが、2006年末にはそれも終了。
2007年リニューアルオープンの際には、記念の展示なども行われたので
観に行きたかったのだが、それを逃したら、また数年の歳月が流れてしまった。
この画像では分かりにくいが、“天下為公”と掲げられた牌樓から正面に建つ正館まで
かなり長いアプローチ。 道中には、古美術風の(?)スツールやゴミ箱が。
★ 入館

チケット窓口の横では、音声ガイド機の貸し出しも行っており、日本語の物も有る。
レンタル料はNTD100だが、さらに人質として(?)パスポートを預けることになる。
パスポートが無い場合は、NTD1000をデポジットとして預ければOK。
★ コレクション
私は、最上階の3階から徐々に下りながら館内をひと通り見学。
コレクションの幅は広く、古代の青銅器、宋代の磁器なども勿論色々有るが
故宮博物院の見所は、やはりもっと新しい清代の文物であろう。
美術品は古ければ古いほど価値が有ると考える人も多いだろうが
私個人的には、高い技術と見た目の美しさが合致し、極まったのが清代だと感じるし
うんちく等無くとも、パッと見てタメ息が漏れてしまうような、とても分かり易いこの時代の品に強く惹かれる。
そんな訳で、清代のコレクションを得意とする故宮博物院は、私好みの博物館。
3階の302という展示室に一緒に飾られている“肉形石”と“翠玉白菜”は、やはり大人気で
展示室に入るのにも列に並び、多少待たされる。
ただ、混雑はこの展示室が一番で、他はそこまでではない。
時間が無い団体旅行客や、あまり美術に興味の無い人々は
最低限この2点だけを“お約束”として鑑賞し、博物院見学を終わらせてしまうのかも知れない。
でも、故宮博物院には、この2点以外にもお宝がいっぱい。
有名な物で、特に印象に残った作品、好みの作品を数点に絞り挙げておくと…
★ ギャラリー304
3階のギャラリー304は、明代、清代の彫刻作品を収蔵するギャラリー。
乾隆2年(1737年)、陳祖章作。
長さ僅か3.4センチのオリーヴの種を船に見立て彫刻を施したもの。
開閉する扉の中には、宋代の詩人・蘇東坡。 船底には蘇東坡の<後赤壁賦>全文300文字を彫刻。
オリーヴは、イタリアやスペイン等でもよく食される植物だが
大雑把なラテン系はその種に細密な彫刻をしてみようなんてまず思い付かず
これを見て、ひと言「
マンマ・ミーア!」であろう。


清代前~中期の作品。
長さ5センチの象牙に、船首に龍の頭をもつ船を彫刻。
三層の楼閣、牌樓、開閉する扉なども備え、ルーペ越しに見ると、その緻密さに驚かされる。

清代末期の作品。
象牙の塊りを、どうくり抜いたのだかサッパリ分からないが、入れ子式に(?)17層の球状に彫刻。
しかも、それぞれの球体は、ちゃんと回るという。 神業…。

清代中期の作品。
高さ45.4センチ、幅30.4センチ、4段重ねになっている象牙製の手提げのボックス。
こういう物は、本来お食事を運ぶ時に使う容器で、平たく言ってしまえば、超豪華なお弁当箱なわけだが
さすがの皇帝も、これは日常使いにせず、観賞用だったらしい。
極限まで薄くした象牙に、さらに文様を施し、まるで透かし編みのレースのよう。
★ ギャラリー205
2階のギャラリー205は、清代の陶磁器などを収蔵するギャラリー。
清代、乾隆年間の作品。
内側が回転する二重構造の瓶を“轉心瓶(転心瓶)”という。
これがまさにその“轉心瓶”で、遠目には普通の花瓶だが、実は外側の瓶が首と本体で分かれていて
首は、内側の瓶と繋がり、中で回転するようになっている。
さらに本作品の場合、外側瓶の腹部の如意雲紋で、上下が切断されているようで組み合わさっているという
巧妙な作りになっている。

清代、乾隆年間の作品。
こちらも“轉心瓶(転心瓶)”。 中段の画像では、瓶の構造が分かる。
青地に金釉の文様が華やか。 外側瓶に開けられた4ツの花弁型小窓から
内側瓶に描かれた
魚が泳いでいるかのように覗ける。

乾隆窯の技術、芸術性の高さが窺える。

清代、乾隆8年頃の作品。
画像だと分かりにくいが、本体に泳ぐ魚の文様が薄っすら浮かぶお椀。
上記の花瓶と比べると、色、柄、形、どこをとってもシンプルに感じるけれど
実はこのお椀も底部がくるくる回る構造になっている。
★ ギャラリー106
1階のギャラリー106は、清代皇室の文物を収蔵するギャラリー。
清代、乾隆年間の作品。
“多寶格”とは、お宝を収納する物のこと。 皇帝の超贅沢なおもちゃ箱。
中に収納するお宝によって呼び名が変わり、一級品を入れるのは“多寶格”、
それよりレベルの下がる品を入れるのは、“百什件”や“萬寶箱”と呼ばれる物だったようだ。
この多寶格には、27点のお宝が収納されており、屏風のように広げた状態で展示されているが
閉じると筒状になり、また逆さに折り込むと四角くなる。

清代、乾隆年間の作品。
こちらの紫檀製の多寶格には、30点のお宝が収納。
約25センチ角のシンプルな四角い箱の四隅から、収納棚が扇状に開くようになっている。
★ 金成旭映~清雍正琺瑯彩瓷特展
2階のギャラリー203では、期間限定の特別展。私が行った時は、“金成旭映~清雍正琺瑯彩瓷特展”という展示が催されていた。
“金成”、“旭映”は、雍正年間の琺瑯彩磁器に記されている印章。
“琺瑯彩瓷(ほうろう彩磁)”は、読んで字の如く、エナメル顔料で文様を絵付けした磁器のこと。
琺瑯彩瓷の技術は、康熙年間に西洋から入ってきたが、雍正年間で飛躍的に進歩したようだ。
④様(雍正帝)は、こういう琺瑯彩瓷を、古くから交流のあった蒙古やチベットの王侯貴族に贈っていたのだと。
この特別展もなかなか面白かった。 2013年10月30日まで開催。

無駄とも思える遊び心、洗練のデザイン、そしてそれらを支える最高水準の技術。
栄華を極めた時代にしか生まれない贅を尽くした品々にタメ息の連続。
超有名スポットで、来場者が多いため、静かに見学出来ないのは、ちょっと残念だけれど仕方が無いか。
時期にもよるかも知れないが、私が行った時は、
大陸からの観光客が多かった。

彼らは団体で動くので、ちょっとしたお喋りも“チリも積もれば山”となり、係り員に注意される場面も見掛けたが
中国語は私にとっては所詮外国語。 それより、意識しなくてもダイレクトに入って来る日本語が癇に障る。
白菜の展示室にガヤガヤと入って来た日本の女子高生軍団のひとりが、私をガイジンと思い込み
「おねぇさん、どいてヨ、見えないー! どうせ分んないから日本語で言っちゃった、へへ…♪」
という言葉に
カッチーン…! 振り返って、危うく
ブン殴るところであった。


「どいてヨ」にカチンではなく、どうせ分からないと思って日本語で言ったというセコさにカチン。
よく外国人は、「日本人は裏表がある」、「嘘つきだ」と言うが
10代からこの態度では、そう言われても仕方が無い。
日本人の高校生集団は他にも居て、そちらは30代と思しき男性引率者まで態度が悪かった。
◆◇◆ 國立故宮博物院 National Palace Museum ◆◇◆
台北市 士林區 至善路 二段 221號


1月1日、元宵節、5月18日(國際博物館日)、9月27日(世界觀光日)、10月10日(國慶日)は無料開放
捷運淡水線・士林駅から、
紅30、255、304、815、小18、小19等バス多数

他、捷運文湖線・大直駅からなら棕13、捷運文湖線・劍南路駅からなら棕20などのバスも