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映画『ジャンゴ~繋がれざる者』

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【2012年/アメリカ/165min.】
1858年、アメリカ、テキサス州。
移送中の黒人奴隷の中から、“ブリトル3兄弟”の顔を知る男、ジャンゴを見付け
彼を解放し、連れ出したドイツ系歯科医Dr.キング・シュルツ。
もっとも、歯科医の仕事は久しくしておらず、懸賞金目当てで、お尋ね者を仕留めるのが今の生業。
新たなターゲットであるブリトル3兄弟の顔を知らないため、ジャンゴの助けが必要だったのだ。
この一件で期待以上の仕事をし、腕を買われたジャンゴは
シュルツから賞金稼ぎのパートナーにならないかと誘われる。
しかもシュルツは、ジャンゴにブルームヒルダという生き別れになった妻が居ることを知ると
彼女の救出にも手を貸してくれるという。
こうして共にひと冬懸賞金を荒稼ぎしたふたりは、ブルームヒルダの捜索を始め
彼女がミシシッピーのグリーンヒルにあるカルヴィン・J・キャンディの農園に居ることを突き止めるが…。
 
 
クエンティン・タランティーノ監督、『イングロリアス・バスターズ』(2009年)以来3年ぶりの新作。
そろそろ上映終了してしまいそうなので、慌てて駆け込み鑑賞。
 
 
物語の舞台は、1858年、南北戦争勃発2年前のアメリカ南部。
そもそもアメリカの内戦、南北戦争とは。
奴隷制大農園が基盤の南部と、産業社会への途上にある北部が、西部の新領土への奴隷制拡大を巡り対立。
1960年、共和党のリンカーンが大統領に当選すると、南部諸州が合衆国から離脱、
アメリカ連合(南部連合)を結成し、北部を攻撃。 以後、南軍が降伏するまで4年間続いた戦乱が南北戦争。
北軍の勝利で合衆国は統一され、奴隷制も廃止される。
本作品の背景は、そんな内戦が起きる直前の不穏な時代で
しかも人種差別バリバリ保守的なアメリカ南部が舞台。
 
主人公ジャンゴは、妻ブルームヒルダと生き別れになったままの黒人奴隷。
移送中、ドイツ系歯科医のキング・シュルツに連れ出され
訳も分からぬまま、彼のパートナーとして賞金稼ぎの片棒を担ぐことになるのが前半。
後半は、ジャンゴの妻ブルームヒルダの救出劇
ブルームヒルダが、グリーンヒルの農園に居ることを突き止めたジャンゴとシュルツのコンビが
悪名高いこの農園領主カルヴィン・J・キャンディを訪ね、ひと芝居打つ様子を描く。
 
私、本来、この種の西部劇(舞台は南部だけれど)には、一切興味ナシ。
クエンティン・タランティーノ監督作品という理由だけで観たら
単純明快な話の割りに、次の展開が読めず、はらはらドキドキの連続。
 
西部劇の重要人物が、西部劇とは縁遠くも思えるドイツ人歯科医という点も面白い。
奴隷制の無い国からやって来たシュルツは、偏見無くジャンゴの腕を認め、ふたりは名コンビになっていく。
また、ジャンゴの妻も黒人奴隷でありながら、ドイツ語を解し
ドイツ人から与えられた“ブルームヒルダ”というドイツ語の名前を持つ。
シュルツは、この名からワグナー『ニーゲルンゲの指環』に登場する
ブリュンヒルデ(ブルームヒルダ)を連想し、ジャンゴにジークフリートを重ね、救出の手助けを約束する。
 
 
 
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                                                         (クリックで拡大) 
出演は、解放奴隷ジャンゴにジェイミー・フォックス、
ドイツ系歯科医の賞金稼ぎDr.キング・シュルツにクリストフ・ヴァルツ、
ジャンゴの妻ブルームヒルダ・フォン・シャフトにケリー・ワシントン、
ブルームヒルダを所有する農園領主カルヴィン・J・キャンディにレオナルド・ディカプリオ、
キャンディの執事スティーヴンにサミュエル・L・ジャクソン等々…。
 
『イングロリアス・バスターズ』で一躍世界にその名を知らしめたオーストリア出身のクリストフ・ヴァルツが
再びクエンティン・タランティーノ監督作品に。
今回も捲し立てている。 扮するシュルツは、口が達者で、飄々とした男。
掴み所が無いから胡散臭く、最初の内は、このシュルツが本当はどのような人物で
何を考えているのか、まったく読めない。
ところが、話が進むにつれ、シュルツの良心が感じられるように。
「悪人?善人?一体ナンなのこの人?!」と翻弄され、知らず知らずの内に、どんどん惹き付けられた。
芸達者揃いの出演陣の中でも、取り分け印象に残る演技であった。
 
『Ray/レイ』(2004年)で、レイ・チャールズとその妻デラ・ビー・ロビンソンに扮した
ジェイミー・フォックスとケリー・ワシントンは、本作品でもメオト役。
 
世間で一番注目されているのは、悪役を演じるレオナルド・ディカプリオだろうか。
クエンティン・タランティーノ監督の前作『イングロリアス・バスターズ』でも
当初“ユダヤ・ハンター”の役への起用が考えられていたと言われている彼。
最終的にその役はクリストフ・ヴァルツへと渡ったが、3年越しで今度こそタランティーノ作品の悪役に。
年を重ね、ちょっとジャック・ニコルソンっぽくなってきた。
ハリウッドスタアに有るまじき、ヤニのような茶渋のような薄汚れた歯は、どうやってメイクするのだろう。
“ムッシュ”は、かまやつひろしだけではなかったようで、レオナルド・ディカプリオ扮する農園領主も
おフランスかぶれで、周囲に自分のことを“ムッシュ・キャンディ”と呼ばせている。 
そのくせ、フランス語には暗く、知性もイマイチ。
彼のせいで命を落とした奴隷が“ダルタニアン”であったことから
シュルツがフランス文学<三銃士>を持ち出し、「作者のデュマは黒人の血を引く」と皮肉るシーンで
私の心の中のモヤモヤも少しは晴れた。
 
 
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あと、マカロニ・ウエスタンのスタア、フランコ・ネロ
キャンディのマンディンゴ仲間、アメリゴ・ヴェセッピ役で特別出演。
キャンディの邸宅内のバーカウンターで隣り合わせになったジャンゴに名前を尋ね
ジャンゴが「ジャンゴ。 スペルはD・J・A・N・G・O。 Dは発音しない」と答えると
ボソッとひと言「I know.」とヴェセッピ(フランコ・ネロ)。 知っていて当然よねぇ、元祖“ジャンゴ”なのだから。
 
クエンティン・タランティーノ監督自身も
終盤、ジャンゴを移送するル・クイント・ディッキー採掘場の従業員役で出演。 木端微塵で御愁傷様。
 
 
 
まさか2時間45分もある長い作品だったとは。
練られた脚本は驚きの連続、出演陣の演技にも見入り、
本来興味の無いジャンルなのに、時間を感じないまま一気にゴールイン。
観ていて、劇中出てくる様々なお金も気になった。
シュルツが、ブリトル3兄弟を仕留める初仕事で、ジャンゴに提示した報酬は
ひとりにつき25ドル、3兄弟全員仕留めて計75ドル也。
現代日本なら、どんなにカツカツの生活をしていたって、たかだか7千円ポッキリのために
3人も殺害するなんていうリスク、誰が背負いたがるだろうか。
富豪ムッシュ・キャンディの気持ちを揺るがした“馬鹿ばかしい程の大金”だって1万2千ドル
日本円にして百万円強。 実際のとこ、現代の価値に換算すると、どれ位なのだろう…?

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