一向に終わらない旅の備忘録を久し振りに更新。
今回は、北京城の門前町、前门(前門)を散策。
北京の中軸線上に位置。天安門広場の南端。
★ 前門
前门(前門)は、北京の中軸線上に建つ“正阳门(正陽門)”の俗称。
紫禁城を中心とした内城を取り囲む城壁には、“九門”と呼ばれる朝阳门(朝陽門)、崇文门(崇文門)、
正阳门(正陽門)、宣武门(宣武門)、阜成门(阜成門)、胜门(徳勝門)、安定门(安定門)、
东直门(東直門)、西直门(西直門)という9ツの城門が有り、
中でも、北京城の中軸線上に建つ、紫禁城内城南端の正陽門は重要で、正門にあたる。
この城門の歴史は約6百年前の明代に遡る。
日本では一般的に“永楽帝”と呼ばれる明朝第3代皇帝、成祖・朱棣が、
1419年(明・永楽17年)、南京から北京に遷都した際に建造した物で、当時の名称は“丽正门(麗正門)”。
1436年(明・正統元年)、“正陽門”に改称され、今に至る。
ただ、地下鉄の駅名にもなっているし、現在一般的には俗称の“前門”の方がよく使われるようだ。
この前門は、城楼と箭楼から成り…
(↑)こちらが城楼。
そして、城楼のさらに南側に建つ(↑)こちらが前門の箭楼。
箭楼(jiànlóu/せんろう)というのは、
“箭(矢)”の字からも想像がつくように、

城楼を防御するための建造物、いわゆる“櫓(やぐら)”。
この箭楼は、城楼よりもう少し後、1439年(明・正統4年)に、都の防衛強化のために建造。
日本のお城でもしばしば見掛けるような、向かってくる敵に矢を放つための小窓が、
南、西、東の3面に、計94個開けられている。
前門で特徴的なのは、城台部に、トンネルのような通路が開けられていること。
このような通路をもつ箭楼は、九門の内、これが唯一。
ここ、かつては皇帝専用の御門だったという。今は誰でもOK。せっかくなのでここを通り抜けましょう!
大陸時代劇を観過ぎなのか、こういう所を通ると、
内緒でお城を抜け出し、変装して庶民の街に繰り出すじゃじゃ馬お姫様の気持ちが重なる。
★ 前門大街
「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」ではなく、「箭楼の門洞を抜けるとそこは門前町だった」。
箭楼を北側から南側に抜けると、すぐ目の前に前门大街(前門大街)という通りが現れる。
北京の中軸線上を南北に845メートル走るこの通りは、
元々は、1550年(明・嘉靖29年)、皇帝が天壇や山川壇(現・先農壇)へ赴く際の御路として建設。
明代中期、この通りの附近には、次々と様々な市ができたという。
また、北京にやって来て科挙に合格した者たちが泊まる各省の地方会館も建ち、
彼らが買い物をしたり飲食をすることで、どんどん繁栄し、一大商業エリアに発展。
さらに、清朝末期、箭楼の東西に鉄道の駅が建設されると、この地域は、北京と地方を結ぶ交通の要所に。
こうして発展していった前門大街だが、近年はいまひとつパッとしない“かつての繁華街”の様相。
そこで、政府は、北京オリンピックを控えた2004年、前門大街の大改修に着手し、
2008年8月、生まれ変わったNEW前門大街として全面開放。
2009年には、1924年、北京で初めての近代交通機関として登場し、1966年にお役目を終えた
“鐺鐺車”と呼ばれる路面電車も、ここに復活。(→画像下右)

この通りを走る唯一の乗り物で、840メートルの距離を約10分かけ、ゆっくり走行。
まぁ移動手段というよりは、遊覧電車という感じ。
(2014年9月には、この鐺鐺車とそっくりな外観の電気自動車も、
北京の名所を巡る観光車両として運行を開始したそうだ。)
★ 前門大街散策
リニューアルした前門大街は、清代末期から民国時代初期の街並みを再現した歩行者天国。
ここには我々日本人にもお馴染みの飲食店や服飾ブランドも出店してるが、
雰囲気は日本のこの手のショッピングストリートとかなり違う。

こちらもアメリカ、LA発のコーヒーチェーン、香啡缤(ザ・コーヒービーン&ティーリーフ)。
日本上陸より前に、中国に進出しております。

日本初のファストファッション、ユニクロもこの近くに出店している。
2014年5月末にオープンしたばかりの杜莎夫人蜡像馆(マダム・タッソー)。
時間が無かったから中へは入っていないけれど、『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』の甄嬛や
『宮廷女官 若曦(ジャクギ)~步步驚心』の④様も居るようだ。
入場料は170元(≒3200円)。
円安ということもあるが、日本のマダム・タッソーの入場料2千円に比べ、高く感じる。
入り口に佇むスティーヴ・ジョブズならタダで見放題。
外国のお店ばかりではなく、もちろん中国のお店も。
こちら、創業1887年(清・光緒13年)創業の北京のお茶の老舗、
吴裕泰(呉裕泰)。

店頭では、
お茶を使ったソフトクリームを販売。緑茶味と花茶味、それぞれ6元だって。

緑茶だと、日本にも似た抹茶ソフトがあるから、花茶味の方が、より中国っぽいだろうか。
(コーンはどうやら日本の日世の物を使っているようだ。)
日本にも進出しているレストラン全聚。1864年(清・同治3年)創業の
北京烤鴨(北京ダック)の老舗。

今や北京市内だけでも何店舗もの支店をもつ一大レストランチェーンだが、本店はここ。
鶏やアヒル肉の売買をしていた楊全仁が、潰れたドライフルーツ屋・聚全の店舗を買い取り、
「倒産した店の名を引っくり返せば、悪い運気が祓える」という風水師の助言で“全聚”として開業。
老舗のテイラー(今やアパレルメーカー)の隆庆祥(隆慶祥)の店頭。
創業者の御先祖様・袁氏が、明代、第13代皇帝穆宗(隆慶帝)にも認められる腕利きの仕立て屋で、
9代目の子孫が、清朝乾隆年間に“袁氏制衣坊”の名で開業し、以後縫製業を続けてきたが、
90年代になり、祖先の偉業を回顧し、隆慶帝にちなみ、隆慶祥と改名したそう。
店頭のこの像は、明代のお仕立ての様子を再現しているのかしら。
★ 備品
この通りは、お店の外観のみならず、街灯、プランター、ゴミ箱など、細部までレトロ。
前門大街が修復を終え、開放されて間もない頃は、
いくら懐古趣味にしたところで、本当に古い物とは違い、ただ綺麗なだけで、
どこか薄っぺらなアミューズメントパークのように感じたが、
今回久し振りに行ったら、良い意味で少し汚れ、
ちゃんと人々の息吹がある活きた街に変化してきたように感じた。
東京もあちらこちらで再開発が行われているけれど、西洋の街並みを真似るばかりでなく、
前門大街のように、自国特有の雰囲気を打ち出せば良いのに。
お江戸情緒漂うスターバックスが有ったら、外国人観光客は勿論のこと、
日本人の間でもちょっとした話題になりそうな気がする。

◆◇◆ 前門 Qianmen ◆◇◆
