赤坂ACTシアターの柿葺落公演として2008年に始まり、今年で4回目になる赤坂大歌舞伎。
私は初演の時、新しい試みがどのようなものかと興味が湧き、劇場へ足を運んだ。
その時の出し物は『狐狸狐狸ばなし』と『棒しばり』。
お目当てだった『狐狸狐狸ばなし』は期待を裏切らない面白さだったし、
当初“オマケ”程度に思っていた『棒しばり』は、実は非常にアクロバティックな演目で、
演じる中村勘九郎(当時:勘太郎)&七之兄弟の驚異の身体能力と表現力に感動させられた。
また行く!と思っていたのに、ズルズルと月日ばかりが過ぎ、それっきり。
2012年には大好きだった中村勘三郎が57歳の若さで突如亡くなり、益々歌舞伎離れ。
そろそろ勘三郎の御子息の様子をうかがわなくてはと思い、今年久し振りに赤坂ACTシアターへ。
他では観ているけれど、赤坂大歌舞伎は、あの初演の時から実に7年ぶり!
★ 赤坂ACTシアター
1ヶ月近い会期の間、私が鑑賞したのは、9月19日(土曜)昼の部。
チケット購入が出遅れてしまったため、候補に挙げていた日がことごとく取れず、
諦めかけたその時、この日のこの回に限って、なぜか1席だけポツンと良席が空いていたため。
そして当日。
会場の赤坂ACTシアターは、入り口までのアプローチにカラフルなノボリが並べられて華やか。
ホールには、役者に贈られた花が飾られ、食べ物やお土産の販売も勿論ある。
リニューアルした歌舞伎座で未だ観劇していないので、何とも言えないけれど、
客層はこちらの方が幅広く、服装もカジュアルな人が多いような気がする。
だからこそ、ポツリポツリといる和装の人が、とても素敵で目を引く。
男性でも和装の人がいて、大変お似合いであった。
久し振りの歌舞伎観劇なので、念の為
イヤホンガイドも借りた。

利用料金は7百円+デポジット千円(デポジットは機材返却時に返金)。
イヤホンガイドは、物語の解説にとどまらず、歴史的背景や歌舞伎の豆知識も語られるから、とても楽しい。
★ 座席
私の席は、1階K列。前から11列目の中央ブロック右寄り。
ステージに近いが、接近し過ぎず、横も奥も見渡せる。
ちょっとした花道は、私の席からはやや遠い左側に設置。
ただ、役者が舞台右そでから下りてきて会場内を回ってくれた時は、かなりの近距離で見ることができた。
I列の人なら、なおかぶりつきで見られるはず。
★ 演目
今回の演目は、『操り三番叟(あやつりさんばそう)』と
『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり) お染の七役』。
上演時間はこんな感じ。
『操り三番叟』-25分
幕間-25分
『お染の七役』序幕・二幕目-1時間35分
幕間-15分
『お染の七役』大詰-30分
開演から終演まで通しで3時間10分。休憩を除くと正味2時間30分。
それぞれの演目については、以下の通り。
★ 『操り三番叟』
能楽の儀式舞踊『三番叟』を基に創作された多くの“三番叟関連作品”の内のひとつ。
糸繰りの人形が三番叟を踊るという舞踊の舞台。
配役は…
中村勘九郎:三番叟
坂東新悟:千歳
中村国生:後見
坂東彌十郎:翁
キン肉マンの額に“肉”と記されているように、
三番叟の額には赤い文字で“寿”と記されている(額の文字は日替わり)。
赤、黒、白、金をベースにした派手な衣装も楽しい。足袋はなんと目も覚めるようなイエロー。
踊る三番叟の動きは、人間のものではなく、まさに操り人形。
まるで本当に天井から垂れる糸に操られているかのように、舞台上をふわふわ軽やかに動くが、
相当な技術と体力がないと、こうはいかない。
もちろん、裏での努力をこれ見よがしに押し付けてくるわけではなく、
とてもユーモアのある舞踊で、見ていて顔がほころんだ。
あと、そう、三番叟の後見(操る人)を、橋之助の長男・中村国生が演じている。
いつの間にか19歳だと。見せ場もあって、もうちゃんと歌舞伎役者になっておられた。
★ 『於染久松色読販 お染の七役』~三幕七場
作・四世鶴屋南北、改訂・渥美清太郎。
宝永年間に大阪で実際に起きたお染と久松の心中事件の舞台を、大阪から東京に移した作品。
質屋油屋の娘・お染と山家屋清兵衛の縁談が進められるが、
実はお染には久松という心に決めた相手がいて、その久松にもまた母が決めたお光という許婚がいる。
この久松、元々は武家の息子で、消えた御家の短刀と折紙(=保証書)を探している。
久松の姉・竹川も、弟を案じ、短刀の捜索と金の工面を土手のお六に依頼。
お六とその亭主の鬼門の喜兵衛は、一策を講じ、油屋で金を騙し取ろうするが…。
配役は…
中村七之助:油屋娘お染/丁稚久松/許嫁お光/後家貞昌/奥女中竹川/芸者小糸/土手のお六
中村勘九郎:鬼門の喜兵衛
坂東新悟:油屋多三郎
中村国生:船頭長吉
中村鶴松:腰元お勝/女猿廻しお作
片岡亀蔵:庵崎久作
坂東彌十郎:山家屋清兵衛
お嬢様とお嬢様の家に奉公している男の身分違いの悲恋、
お江戸版“ロミオとジュリエット”だと思い込んでいたら、まぁそれもあるけれど、ちょっと違う。
久松はそもそも武家の息子。父が名刀・午王義光をなくしてしまったため、
父は切腹、お家はおとり潰し、久松は身分を伏せ、奉公に出たのだ。
このような背景があるから、刀を巡る騒動や各々の思惑が絡み、ただの悲恋には収まらない面白さが。
見所は、ズバリ七之助の早替わり!七之助だけに、演じるのはなんと一人七役!
物語の序盤は人間関係の説明でもあるから、冒頭のたった10分程度の間にも、
確か4人くらいに次々と変わっていったので、その時点ですでにビックリ。
一例を挙げると、(↓)こんな感じ。
左から、質屋のお嬢様・お染、お染の恋人・久松、久松の許婚・お光。
衣装も髪型もまったく異なるのに、早替わりに1分とかからない。
しかも、衣装は見るからにチャチな粗末な物ではなく、ちゃんと豪華。
また、見た目を変えているだけではなく、声や喋り方、身のこなしで、ちゃんと役を演じ分けているからお見事。
あっ、ちなみに、お光が着ているような緑色の衣装は、歌舞伎では田舎娘によく使われるらしい。
一説には、長閑な田園の風景を連想させる色だからなのだとか。
驚くしかない早替わりだが、お染と久松は恋仲なのに、さすがにその後も同じ場面にまったく登場しない。
そりゃあそうよねぇ~、映画やドラマだったら、CGの処理で、一人の俳優を同じ画面に入れられるけれど、
ナマの舞台ではそれが不可能。
きっと二者を同時に出さずに済むように、物語が上手く練られているのだろう、
…と物語の展開を気にしながら鑑賞。
そうしたら、最後の幕・大詰で、なんとお染と久松が一緒に登場!ど、ど、どうなっているの…???![]()

意地悪くタネを見破ってやろうと目を凝らしたが、
仕掛けが、まーーーったく分らなぁぁーーーーーーーい…!!!!!
七之助って、本当は双子でしょう??じゃなきゃ、ものの2~3秒でお染⇔久松は無理っ!
私は勘九郎ファンなので、勘九郎より七之助の出番が多い今回の公演をどれくらい楽しめるか、
実のことろ、やや不安もあったのだけれど、結果は大・大・大・大・大満足っ!
伝統芸能でまさかのイリュージョン。
歌舞伎を難解なもの、古臭いものだと思い込んでいる人にこそ、観ていただきたい。
芸術性と娯楽性を兼ね備えた、驚愕のパフォーマンスだから。
あと、やはり役者が素晴らしい。
映画でもドラマでも舞台でも、一般的な俳優の中には“天性の俳優”と呼ばれる人がいるが、
歌舞伎は、仮にその“天性”に恵まれている人でも、パッとできるものでは絶対にないと感じる。
歌舞伎役者のDNAが組み込まれている人が、言葉もろくに喋れない子供のうちから、歌舞伎に慣れ親しみ、
厳しい稽古を積み、骨の髄にまで歌舞伎が染み付いているからこそ為せる業であり、発するオーラ。
一方的にずーっと見守り続けてきた勘九郎と七之助だけれど、益々彼らのファンになってしまった。
(よくよく考えると、AKBのような“自分たちで育てるアイドル”の原点も、歌舞伎にあるかも知れない。)
舞台の最後は、その日の大入りを祝い、役者が観客席に向け、中村屋の手拭いを何本か投げた。
私の近くに居た女性も、キャッチしていた。いいなぁ~。
2015年の赤坂大歌舞伎は、千秋楽の25日まで、あと何公演かある。
これから行く人は、会場内が冷えるでの要注意。羽織りものを持って行かないと、凍死しかける。
(私はショールを持参していったが、それでも軽く風邪をひいてしまった…。)
◆◇◆ 赤坂大歌舞伎 ◆◇◆
会場:赤坂ACTシアター
会期:2015年9月7日(月曜)~25日(金曜)