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映画『ハーバー・クライシス~都市壊滅』

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【2014年/台湾/126min.】
台湾・海港城(ハーバー・シティ)で、橋や鉄道、高層ビルといった重要なインフラ、建造物が
次々と破壊されるという大規模な連続爆破事件が発生。
この事件を起こしているのは、全員指名手配中の犯罪者であることが判明。
南區分局に所属する刑事・吳英雄も、外出中、何者かに狙われ、辛うじて命は助かったものの、車は大破。通り掛かった東區分局所属の若手刑事・陳真の車に成り行きで同乗すると、
そこに局の同僚から一報が入る。
なんと、指名手配されている事件の容疑者の中に、
一年前、英雄が死亡を偽装し、逃亡を手助けした徐達夫が含まれているというのだ。
状況が理解出来ず戸惑う英雄だが、
偶然にも、その徐達夫が運転する車が、英雄らの横を猛スピードで走行するのを目撃。
追い詰め、事情をただすと、徐達夫は、妊娠中の妻・小晴を人質に取られ、海港城に連れ戻され、
今でも脅され続けているという。
その犯人は、“夜行者”という武装組織。
英雄と陳真は、徐達夫に代わり、今でも行方の分からない彼の妻・小晴の捜索をする内に、
夜行者が小晴の体内でウィルスを培養し、人類滅亡を目論んでいるという恐ろしい計画を知り…。



台湾の大ヒットドラマ『ブラック&ホワイト~痞子英雄』の映画版、
監督は、ドラマ版からずーっと同じ蔡岳勳(ツァイ・ユエシュン)



ドラマも含め第3弾(映画版としては第2弾)となる今回の舞台は、これまでと同様、
台湾の架空の都市・海港城(ハーバー・シティ)。…実のところ高雄。

その海港城で、橋や高速道路、鉄道などが破壊される大規模な爆破事件が立て続けに発生。
南區分局所属の熱血刑事・吳英雄は、成り行きから東區分局所属の若手刑事・陳真とタッグを組み、
捜査を進める内に、生物兵器で街を破滅させようとしている武装組織・夜行者の計画を知る。
果たして英雄と陳真は、このおぞましい計画を阻止し、
市民を守ることができるのか?!をスリリングに描く刑事ドラマ

第1弾のドラマ版は、視聴者を人間不信に陥れるほど、誰が善人で誰が悪人か見分けがつかず、
結局事件も解明されず、“何やら巨大な権力が背後に”と不気味な謎を残して幕を閉じる。

その後制作の映画版で様々な謎が解明されるのかと思いきや、
キャストの変更など致し方ない事情もあったのか、方向性が変わり、
ドラマ版とはほとんど関係のない内容の映画になった。
その作品で主人公・英雄の新たな相棒になったのは、同業の刑事ではなく、ヤクザ者の徐達夫。
事件解決後、徐達夫は、英雄の計らいで、死亡したことにしてもらい、逃亡して、映画は幕を下ろす。

第3弾となる本作品では、前作で逃亡したその徐達夫が、妻を人質に取られ、
やむを得ず海港城に舞い戻ってくるという前作からの繋がりはあるものの、ほぼ独立した物語。
前2作品未見の人でも楽しめるという利点はあるが、
逆に、ドラマ版から観ている人にとっては、もはや何の統一性も感じられないという欠点。

時系列も明らかに変。
第1弾ドラマ版の時代設定は2008年。
第2弾映画版は、その3年ちょっと前、2004年8月を描いたドラマ版の前日譚。
第3弾の本作は、第2弾の最後で逃亡した徐達夫が、
約一年半後に海港城に戻ってきたところから始まる話なので、時代設定は2006年春。
この映画の2年後が、あのドラマの話に繋がっていくとは、到底思えない…。
あそこまで壊滅した海港城も、たったの2年で、ドラマの中で完全復興しているし…。
細かい点を色々考えると、辻褄の合わない事だらけ。




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今回、事件解明に乗り出すコンビを演じているのは、
海港城南區分局に所属する刑事・吳英雄に趙又廷(マーク・チャオ)
東區分局に所属する若手刑事・陳真に林更新(ケニー・リン)

ドラマ版『ブラック&ホワイト』でデビューし、いきなり人気者になった趙又廷は、
本シリーズ3作品全てに英雄役で出演。
今回の英雄は、前作の事件解決で…

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海港城警察の警察官募集ポスターのモデルにも抜擢されるほど、街の人気者になったらしい。
こういうポスター、実際に有りそう~。


その英雄の相棒は、3作品で全て違う人物。

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改めて、過去作品の相棒を見てみると、(↑)こんな感じ。


このシリーズの中文原題『痞子英雄』とは、“痞子(ゴロツキ)”と“英雄(ヒーロー)”の意。
そのタイトル通り、第1弾のドラマ版は、周渝民(ヴィック・チョウ)扮する刑事らしからぬチャラい陳在天と、
趙又廷扮する“名が体を表している”正義感の強い吳英雄という凸凹コンビの“バディもの”であった。

このコンビは大人気だったのに、周渝民が役を続投しなかったことで(←理由は諸説あり)、事態が急変。
シリーズ第2弾・映画版では、ゴロツキどころか、本物のヤーさん・徐達夫を英雄の相棒にして、
刑事&ヤクザという不思議な“バディもの”に変更。


第3弾で、英雄の相棒になるのは、陳真という若い刑事。この“陳真”という役名に注目。

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“陳真”は、かの『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972年)で李小龍(ブルース・リー)が演じた役。
20世紀初頭の上海日本租界で、中国人を屈辱する日本人に耐え切れず、一人果敢に立ち上がり、悪を成敗。
架空の人物ながら、中華圏では正義のヒーローとして大人気で、その後も多くの映像作品に登場。
甄子丹(ドニー・イェン)がこの陳真を演じている。

でも、現代モノ、しかもポリス・アクションに“陳真”が登場するのは初めて見た。
この若手刑事は最初の登場シーンで、切羽詰った状況にもかかわらず、自撮りを始め、“痞子”っぷりを発揮。
吳英雄との新たな“痞子英雄”コンビを予感させるが、実は彼、結構生真面目で、
国を救うため日本人に立ち向かった“陳真”のように、やがて彼も海港城を救うため、悪に立ち向かっていく。
融通が利かず、ルールも無視して暴走しがちな吳英雄の方が、もはや“痞子”という印象も…。

陳真に扮する林更新は、ドラマ『宮廷女官 若曦(ジャクギ)~步步驚心』
“⑭様”こと愛新覺羅胤禵を演じ、大ブレイクした大陸の新星。
あのドラマのヒットで、映画出演のオファーも急増。
日本でこの前に公開された映画『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』(2013年)でも
趙又廷とコンビを組んでいるが、作中での存在感はさほど大きくは感じられなかった。
林更新を堪能するなら、断然こちらの『ハーバー・クライシス』。
辮髪がエレガントだった『若曦』とはまた異なる、より等身大の青年を演じている感じ。



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他の出演は、妻を人質に取られ、海港城に戻って来た三聯會の元組員・徐達夫に黃渤(ホアン・ボー)
人質になった徐達夫の妻・杜小晴に關穎(テリー・クアン)
英雄の同僚で鑑識官の藍西英に張鈞(チャン・チュンニン)
武装組織・夜行者の指揮官で、なんと藍西英の実兄でもある藍西恩に蔡岳勳(ツァイ・ユエシュン)
英雄に憧れる見習い刑事・李小牧に古力娜扎(グリナザ)等。

黃渤は、前作からの流れで、友情出演程度に登場するのかと思っていたら、結構しっかり出ていた。

もっと予想に反しシッカリ出ていたのは、蔡岳勳監督!
蔡岳勳監督は、前作のジャパンプレミアが行われた際、会場入りするところを偶然お見掛けし、
握手してもらったことがある。
間近で見た蔡岳勳監督は、想像していたよりずっと長身で、俳優もできそうなナイスミドルであった。
そんな蔡岳勳監督が、今回は本当に俳優として出演しているのだが、
演じているのは、実際のナイスミドル蔡岳勳監督とはまったく異なり、
ロン毛で首にまでタトゥを入れている極悪人。
御本人も別人格に扮するのが楽しくて、カメオ出演程度に出たのだろうと想像していたら、
事件の黒幕という重要な役で、登場シーンもかなり有った。
(ただ、元々の顔が穏やかなので、扮する藍西恩に、あまり狂気は感じられなかった。)


女子の部で注目は、英雄の部下・李小牧役で、シリーズ初登場の古力娜扎。
今年、大陸の人気俳優・張翰(チャン・ハン)との交際が明らかになった維吾爾(ウイグル)族のあの女優。
はっきり言って、居ても居なくても、どうでも良い役に感じた。
“その他大勢”の中に、バター臭い顔が一人混ざっているのが、なんだか不自然。
こういう“無理矢理ネジ込んじゃいました”という配役は、近年の中台合作の悪い所。
(まぁ中台合作と限らず、中香合作にも中韓合作にも、物語を無視したこういうネジ込み配役は多く、
様々な打算で行われる合作の負の側面を見せ付けられているようで、ゲンナリする。)


あと、脇は、警察関係、政府の要人、特殊部隊、謎の組織の人間など、ドラマ版からの出演者多数。




生物兵器・“伊魯康吉(イルカンジ)”だとか、謎の武装組織が進める“枯草計畫”だとか、
現実離れしていて何だかよく分からないけれど、とにかく、得体の知れない巨大な魔の手によって、
人類が滅亡の危機にさらされるという点は、シリーズ3作品全てに共通。
私、“伊魯康吉(イルカンジ)”なんて、この映画の創作だと思い込んでいたら、
オーストラリアのアボリジニ・イルカンジ部族から命名された、
猛毒を持つ“イルカンジくらげ(Carukia barnesi/Irukandji jellyfish)”というクラゲが本当に居るそうな。
人質になった徐達夫の妻・杜小晴は、そういう猛毒ウィルスを、体内で培養されていた訳か。怖っ…。

でも、まぁ、退屈しのぎにはなっても、わざわざ映画館に足を運んでまで観る必要の無い映画と感じた。
多額の予算を注ぎ、ハリウッド並みの迫力映像を撮れるようになった
現在の台湾映画の実力を見せたかったのも、分らなくもないけれど、
私が台湾映画に求めるのは、そのようなものではない。
予算も無く、限られた条件の中で細々と撮られてきたこれまでの台湾映画は、
素朴で、ローカル臭がムンムン漂っており、それが結果的に台湾映画の魅力になっていた。
つまり、意図しようとしまいと、台湾映画界は、苦境を強みにしていたわけだ。
勿論、外国人が求める台湾映画のイメージに固執せず、新たな挑戦をするのもまことに結構な事だけれど、
果たして日本にどれ程度そのようなハリウッド風台湾映画の需要があるのか疑問。
ドラマ『ブラック&ホワイト』のブームもすっかり落ち着いてしまい、
前作の映画から3年も経って日本公開というタイミングも悪い。
大した需要も無く、タイミングも逃した映画が、よくぞ公開に漕ぎ着けたと思う。
(でも、案の定、映画館はガラガラだった…。)

毛髪の有る林更新をスクリーンで拝めたのは、良かった。
声も、⑭様仕様の吹き替えではなく、地声が聞けるのが良い。
でも、蔡岳勳監督作品なら、映画は取り敢えずは当分お休みし、
制作が発表されたテレビドラマ、台湾版『深夜食堂』が観たい。日本でも放送してくれる?



シリーズ第1弾、ドラマ『ブラック&ホワイト~痞子英雄』については、こちらから。

シリーズ第2弾、映画『ハーバー・クライシス~湾岸危機』については、こちらから。

東京銀座で行われた『ハーバー・クライシス~湾岸危機』ジャパンプレミアについては、こちらから。

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