【2014年/中国・香港/97min.】
張慧と小恭は、男女の垣根を越えた大親友。…が、実は張慧、大学時代から密かに小恭を想い続けている。家が裕福ではないため、恋愛どころではなく、とにかくまず仕事で成功したいという小恭の気持ちを汲み、その内彼が振り向いてくれることを信じ、大学卒業後は、彫刻家の夢を捨て、小恭と同じ会社に入社。ずっと気心の知れた親友として付き合い続けてきたのだ。ところが、ある日、仕事で二人一緒に覆面調査に行ったレストランで、満面の笑みを浮かべた小恭が、張慧に予想だにしなかった告白をする、「恋人ができたんだ」と。なんでも相手は、先月台湾出張へ行った際に知り合った“蓓蓓”という台湾人女性だという。甘く優しい蓓蓓に、小恭はもうメロメロ。阮美ら事情を知った女友達たちは、ホラ見たことかと張慧をお説教。男性の心を掴むのは、なんといっても甘え上手な女だという彼女たちから、張慧は小恭を取り戻す秘策を次々と伝授されるが…。

私は、大阪アジアン映画祭で上映された『アバディーン~香港仔』(2014年)を観ていないので、
『低俗喜劇』(2012年)以来の彭浩翔監督作品。
それにしても、“香港度”が高く、とかくエロやお馬鹿が盛り込まれがちな彭浩翔監督作品が、
よりによって中国映画週間で上映されるとは思わなかった。
もっとも、本作品は香港を舞台にしていない非広東語作品。
このような作品は、北京で撮られた北京語作品『恋の紫煙2』(2012年)以来。
本作品には
羅夫曼の<會撒嬌的女人最好命>という原作が“一応”アリ。

この本のタイトルを訳すなら<甘え上手な女は超ラッキー>って感じか。
どうやら小説ではなく、男女関係をより良くするための指南を女性読者向けに書いた本みたい。
なので、よくある“小説の映画化”とも恐らく違い、
この指南書をヒントに物語を膨らませてできた映画だと推測。
で、その物語は、大学時代からずっと密かに片想いし続けている小恭を、
甘え上手な台湾女・蓓蓓にあっさり奪われてしまった男勝りな女性・張慧が、
女友達の指南で、男好きのする可愛い女に変身しようと奮闘しながら、
あれやこれや小恭奪還作戦を繰り広げる
ラヴ・コメディ。

蓓蓓の出現で、上海と台湾で恋の両岸バトル勃発!
小恭はいつか自分の方に振り向いてくれると漠然と信じていた張慧にしてみれば、
台湾からの寝耳に水の奇襲攻撃ですわ。
しかも小恭ってば、いとも簡単に陥落…。
隣の芝は青いのです。大陸男を落とすのには、甘ったるい台湾訛りさえも立派な武器。
そんな訳で、
今回の主なロケ地は上海と台湾。

彭浩翔監督作品が台湾で撮影されるのはお初なので、どういう所が出てくるのか注目していたら、
やはり夜市が出てきた。
日本人と同じように、香港人にとっても上海人にとっても、
台湾と言えば夜市は外せない観光スポットなのであろう。
しかし、日本人とは少々違うと感じるのが、夜市のB級グルメ。
日本のメディアが必ず取り上げる台湾夜市のB級グルメといったら、
蚵仔煎(牡蠣オムレツ)、雞排(フライド・チキン)、香腸(ソーセージ)、胡椒餅、
そして罰ゲーム的に臭豆腐、って感じではないだろうか。
ところが、この映画の中で、台湾を訪れた上海女・張慧が、目を輝かせ、真っ先に飛びついたのは…

2015年10月末に放送された『孤独のグルメ Season5』台湾編にも、似た物は登場。
主人公・井之頭五郎は、アンズ飴と間違え、
トマトと烏梅を交互に串刺しにし、飴がけした糖葫蘆(タンフールー)を購入。
トマトをフルーツとして食べるなんて考えもしなかったというコメントはあったが、
トマトと烏梅のコンビネーションに関しては、井之頭五郎の言及ナシ。
私は烏梅番茄を食べたことがないのだが(…食べてみたいと思ったことすらない)、どうなの??
他を差し置いてまで飛びつきたくなる程の物なのか。
私には、味だけではなく食感も、烏梅とトマトではしっくり馴染みにくいように思うのだけれど…。
さらに、
美術にも関心の高い彭浩翔監督作品では、作中に出てくるアート作品やアート・スポットにも注目。

上海のシーンに出てくる上海當代藝術館(MOCA上海)は、日本人でも行く人が多いであろう。
撮影時は、中国現代アート展が開催中だったらしく、
私も好きな夏小萬(シア・シャオワン)の作品も(→参照)、張慧の後方にずっと映っていた。
そんな張慧が、台湾で訪れるアート・スポットは…
台湾を代表する彫刻家・朱銘(ジュウ・ミン/しゅ・めい 1938-)の作品を集めた朱銘美術館。
ここは日本人がなかなか足を運ばない場所なのでは?
出演は、大学時代から小恭に片想いし続ける男勝りの女性・張慧に周迅(ジョウ・シュン)、
張慧の気持ちに気付かず、仲の良い親友関係を続ける小恭に黃曉明(ホアン・シャオミン)、
小恭が交際を始める甘え上手な台湾人女性・蓓蓓に隋棠(ソニア・スイ)、
張慧に男性攻略法を伝授する親友・阮美に謝依霖(イボンヌ・シエ)等々。
彭浩翔は、香港から北京に拠点を移して間もない2010年に、
周迅主演の
ネット上のショートフィルム『指甲刀人魔』をプロデュースしており、

その頃からもう本作品を周迅で!という構想があったようだ。
本作品の周迅は、ショートヘアがお似合いで、お召し物もお洒落で目に楽しい。
サバサバした“女に好かれる女”を好演しており、とにかくキュートで魅力的。
色気の無い張慧に、女友達が勧める勝負下着が“血滴子(フライング・ギロチン)”だったというくだりでは、
「勝負し過ぎ…!」と苦笑。
あちらでは、映画関連グッズをこの血滴子で色々作ってしまったようだ。
画像は、キーホルダーとイヤホンジャック用アクセサリー。
彭浩翔監督は、女性のみならず男性を魅力的に演出するのも上手い。
私が、黃曉明を本心から“良い”と感じたのは、『恋の紫煙2』である。
美男子があまりにも美男子然としていると、その美貌が鼻に付いてしまうことがあるけれど、
彭浩翔監督はそれを逆手にとって、笑いと愛嬌に変えることに長けている。
例えば、黃曉明のむきむきボディも、もし韓ドラのようなベタなラヴストーリーの中で見たら、
ゲンナリし、「さっさと服着ろよ…」とボヤいてしまいそうだが、
本作品の中で見ると、無駄に鍛え上げられた彼の胸筋にさえ、笑みが洩れてしまうワケ。
黃曉明扮する小恭のシーンでは、
“カーリングの中継を目を閉じて聞いているだけで興奮できる”というくだりにも笑った。単純。
彭浩翔監督作品に描かれる“男って馬鹿よねぇ”なネタは、いつも面白い。
台湾の隋棠は彭浩翔監督作品初登板。
“嫌味になりがちな美を逆手にとって笑いに変える”テクは、女性の隋棠にも生かされている。
近年隋棠が、ドン臭い女の子やくたびれた主婦を演じてきたのは、
“モデル上がり”の汚名を返上したかったのが大きな要因と見受けるが、
逆に本作品では、足枷になっていた美を武器に、“女に嫌われる女”を演じ、コメディエンヌのセンスを発揮。
まぁ実際には、ここまで綺麗だと同性も嫌わないと思うけれど。
特に日本の場合、世界的に見ても稀な“フツー”を好む男性が多いので、
隋棠レベルの美女は例え甘え上手でも、男性が怖気づいてしまい、案外モテないものなのです。
日本だったら、もっと小柄でフツーっぽい女性、例えば田中みな実や皆藤愛子などが、
例の「討厭~」をやったら、5割の男性を落とせ、8割の女性から叩かれると思います(笑)。
台湾からは、隋棠のみならず、張慧の親友・阮美役でバラエティ出身の“Hold住姐”こと謝依霖も出演。
演じているところは初めて見たけれど、面白い。
決して美人ではないので、“おばさんくさいお節介な女友達”みたいな立ち位置なのかと思っていたら、
男性を知り尽くし、狙った獲物は必ず落とす女豹だったという意外。
通常の映画だと、こういうお笑い担当の三枚目は、モテない役回りだが、
本作品のこの阮美の場合、狙われた男性は彼女のトゥーマッチなお色気にドン引きするどころか、
面白いようにコロッと落ちてしまうのだ。
(↓)こちら、自ら“血滴子”を装着したり、
共演者の隋棠、Hold住姐と甘えん坊ポーズをして、映画を宣伝する黃曉明。
彭浩翔監督作品で黃曉明を見る度に
「もしかしてこの人本当に性格いいんじゃないかしら?」と思えてくる。
この『愛のカケヒキ』も、そもそも良いキャストを揃えているけれど、それぞれの魅力も上手く引き出されている。
さらに、画作りが洗練されていて、飽きさせないストーリー展開…、と完成度の高いエンターテインメント作品。
結果が分りきった単純なラヴコメなのに、すごく楽しい。
中国映画週間で本作品を観るために、東京国際映画祭で同日同時刻上映の彭浩翔プロデュース作品
『レイジー・ヘイジー・クレイジー~同班同學』を諦めたので、
もし『愛のカケヒキ』がつまらなかったら、当分悔いを引きずりそうと恐れたが、そんなの要らぬ心配であった。
(『同班同學』も次に機会が訪れれば、もちろん是非観たい。)
香港の似たり寄ったりのアクション映画やノワールはどんどん入って来るのに、
彭浩翔監督作品がなかなか公開に漕ぎ着けない日本の感覚が、私にはまったく理解できない…。
そんなだから、香港映画の上映館に行くと、おばちゃんばかりで、ファン層が広がらないのでは。
『愛のカケヒキ』は、ストーリーが分かり易いし、お洒落っぽいし、
近年ドラマから中華エンタメに入る女性が好む台湾や台湾明星も出てくるから、
公開したら、少なくとも他の香港映画よりは広く一般にウケる気がする。
落ち込んでいる時に、これを観たら気分が上がりそうだから、私はDVDも欲しい。
あとは、やはり『アバディーン~香港仔』も観たーいっ!
大阪アジアン映画祭でお披露目されたままお蔵入りなんてもったいない。東京でも上映お願いいたします。