2015年10月末に始まった<村上隆の五百羅漢図展>が、
会期終了まで残り一ヶ月を切ったことに気付き、ようやく森美術館へ足を運ぶ。
★ 村上隆
村上隆(1962-)は、日本を代表する現代美術のアーティスト。
本展は、日本では、2001年に東京都現代美術館で行われた
<召喚するかドアを開けるか回復するか全滅するか>展以来、実に14年ぶりの大規模個展となる。
村上隆といえば、アニメなど日本のヲタク文化を題材にした作品で注目され、
ルイ・ヴィトンなどとコラボも果たした“海外ウケのよいアーティスト”という印象。
日本のサブカルをアートに昇華させたアイディアは確かに凄い。
もし私が外国人なら、素直に村上隆を面白い!と評価したと思うけれど、
同じ日本人ゆえか、どうも斜めから見てしまう。
これは、昔から欧米で評価されるアーティストに共通して言える事だけれど、
あちらでは、作品そのものより、自分を高く売り込むプロデュース力が物を言うと感じることがしばしば。
私は、日本独自のヲタク文化を芸術として欧米に持ち込んだ村上隆には、
どうしても“狙った感”を嗅ぎ取ってしまい、純粋な芸術家というより、計算高いビジネスマンに見えてしまうのだ。
そういう所は、アンディ・ウォーホール等にも通じる。
アイディア勝負のウォーホールが、“Factory”と呼んだスタジオで作品を大量生産していたように、
村上隆が埼玉県に構えるスタジオを“工場”と呼んでいる点にも、アートに対する共通の姿勢が感じられる。
だからといって、別に批判しているわけではない。
ただ単に、私自身が日本のアニメや漫画という文化に夢中になることなく成長したため、
それを題材にした村上作品にも、さほど心を揺さぶられることが無かっただけなのかも知れない。
ところが、近年、村上隆の作風に変化が出てきて、興味が湧いてきた。
自身の背景にある日本、広くはアジアの芸術や文化を再構築している点は、これまでと根底で同じだが、
昭和期のサブカルから、もっと古い物へと、作品の題材が移行している印象で、
ようやく私の好みに近付いてきた。(←村上サン、思いっきり上から目線でスミマセン。)
★ 森美術館
そんな訳で、村上隆の作風が私の好みと近付いてきたこのタイミングで、
久々に大規模個展が開催されたので、だったら行かねば!と。
会場は、六本木の森美術館。六本木ヒルズにはたまーに行っても、森美術館に入るのは久し振り。
空いていそうな平日の朝一を狙って行ったら、案の定特別混んでおらず、ゆったり美術鑑賞できた。
まずは入り口で、本展の主・村上隆が直々に我々ゲストをお出迎え。
すっごいリアル…!しかも、これ、…いや彼、
目が動くの。

まるで生きているかのような村上羅漢におののきながらエントランスをくぐり、いよいよ鑑賞スタート。
なお、この展覧会では、非営利かつ私的使用の目的でのみ
撮影可能。

★ 五百羅漢
まず、取り敢えず、本展覧会のタイトルにもなっている“五百羅漢”について。
“五百羅漢”は、(所説あるようだが…)釈迦の5百人の弟子、
もしくは釈迦の入滅後“結集”と呼ばれる仏典編集に集まった5百人の弟子を指す場合が多い。
(↓)こちらが、その五百名のリスト。
物好きな方は、クリックで拡大し、五百人全員の名を暗記してみてはいかがでしょう。
そんな五百名の羅漢を描いた五百羅漢図は、案外目にしていることが多く、
例えば、
李連杰(ジェット・リー)主演映画『少林寺』(1982年)の中で…

「僧侶が長年修行した結果、床がデコボコに変形」と紹介され有名になった
あの嵩山・少林寺の千佛殿の壁に描かれているのも<五百羅漢>。
羅漢信仰は、ここ日本には平安時代、宋から伝わり、
こと江戸時代以降、五百羅漢図や羅漢像が盛んに作られるようになったという。
本展では、そんな日本の先人たちによる<五百羅漢図>も展示。
大きい方は狩野一信(1816-1863)の<五百羅漢図>、
小さい方は長澤芦雪(1754-1799)の<方寸五百羅漢図>。
“小さい方”は本当に小さい。お題の通り、一寸角(3.1cm×3.1cm)の中に、
羅漢や動物が細かくギッシリと描かれている。
細々とした作業が得意で、米粒の中にお経を書いたりする人も居る日本ならではの<五百羅漢図>。
★ 村上隆の五百羅漢図
このように、昔から日本でも多くの絵師に描かれ続けてきた<五百羅漢図>を、
村上隆はどのように表現したのか…?
村上隆版<五百羅漢図>は4ツのパートから構成され、
それぞれに、古代中国の思想で東西南北を司る霊獣“四象(四神)”の名が冠せられている。
“四象”とは具体的に…
北の玄武(黒)、南の朱雀(赤)、東の青龍(青)、西の白虎(白)を指す。
これ、結構身近で、例えば、風水に基づいて成り立っている横浜中華街などでも、
北には玄武門、南には朱雀門といった具合に、ちゃんと四象に守られた牌楼が建てられている。
村上隆版<五百羅漢図>は、高さ約3メートル、全長100メートルという大型作品なので、
スペースに限りがある森美術館で、それぞれをちゃんと東西南北に展示することは不可能。
<青龍>と<白虎>、<朱雀>と<玄武>に分け、2ツのホールで展示されている。
上から順に<青龍>、<白虎>、<玄武>、<朱雀>。
作品の地の色がそれぞれの四象に呼応していると勝手に思い込んでいたので、
例えば、広告にも使われている赤い地の作品が<朱雀>だと思っていたら、あれは<白虎>であった。
(事実、作品右寄りに白い虎が描かれている。)
第一印象は、ただただダイナミック。
大きな作品なので、最初は迫力に圧倒されるばかりだが、次に部分部分を少しずつ見ていくと、
うわっ、おかしなポーズの羅漢が居る!とか、袈裟の柄が凝っている!とか、ディティールに沢山の発見があり、
<ウォーリーをさがせ!>に食い入ってしまうような楽しみが湧いてくる。
別室では、<五百羅漢図>の制作工程も紹介している。
★ 東洋趣味
<五百羅漢図>以外の展示も色々。
私は特に近年のオリエンタル色濃い作品に惹かれる。ここには、印象に残った3作品をピックアップ。
上から順に、<宇宙の深層部の森に蠢く生命の図>の中のガネーシャ、自然の摂理、シシ神、
<達磨大師>、そして<見返り、来迎図>。
一番上のは、“村上隆解釈の伊藤若冲”って感じが面白い。
3作品全て良いけれど、特に大胆な構図の<達磨大師>が好き。
★ 金銀
金箔、プラチナ箔を使い、金色ベースと銀色ベースを対にした作品からも、和の雅が感じられて、好み。
左側、銀色ベースの<死の淵を覗き込む獅子>と右側金色ベースの<この世の無常を喰ろうて候>。
こちらも良し。
<円相:アトランティス>と<円相:シャングリラ>。
2015年の作品。作品の中で東洋思想を突き詰めて行くと、どんどんシンプルになっていくのかも。
この2作品が、その前兆のような気も。
まぁシンプルなのだが、近付いてよく見ると、地が
ドクロ柄(笑)。

★ その他
もちろん、<DOB>シリーズなど、これまでの流れを汲んだ“これぞ村上隆!”な作品も沢山展示されている。
★ ミュージアムショップ
最後はミュージアムショップに寄り道。
ショーケースの中に飾られた、高さ30センチほどの4体の羅漢フィギュアに目を奪われる。
可愛い!欲しい!でも、説明も値段も何も記されていないので、売り物かどうか分からない。
仮に売り物でも、ビックリするような値段を提示されそうで、恐ろしくて聞けないわ…。
カプセル入りの海洋堂製フィギュアなら、一個5百円で買えます(全10種類あり)。
私は、会場限定販売の豆本のみ購入。
手のひらにスッポリのる10センチ角程度の小さな絵本。
左右どちらからも開け、中は蛇腹状。
パラパラと開くと、片側には<五百羅漢図>、もう片側には主要キャラの説明が書かれている。
★ 余談
この日、私が会場に入った約15分後に、安倍晋三の妻・昭恵夫人がやって来た。
日本の芸能人を街中で見掛けると、「えっ、この人、実はこんなに小さかったの?!」と驚くことが多いけれど、
昭恵夫人は逆で、テレビの中で見る“小柄でコロコロした人”というイメージと違い、意外にもスラリ。
身長165センチは絶対に越えている。170近くあるのでは。
しかも、日本人にありがちな“シシャモ足”ではなく、細くて真っ直ぐなふくらはぎ。
あの世代の日本人女性としては、かなりスタイルが良い方だと思う。
ただ、全体から発するオーラが地味なせいか、
その時会場に居た人のほとんどは、昭恵夫人に気付いていなかったみたい。
ちなみに、村上隆は、数年前、慶応病院の外来でお見掛けいたしました。
今回は大型作品の展示が多いので、是非ナマで鑑賞したかった。
大きな物がこちらにドカーンと向かって来るような迫力の体感は、やはり美術館で本物に触れる醍醐味。
それに、村上隆の作品の場合、印刷された物だと、ただのイラストと大差無いように見えてしまうが、
実物を間近で見ると、何層にも重ねられた版の複雑な色や柄、キャンパス上の凹凸など
案外凝っているディティールに感動する。
来場者は外国人からファーストレディまで(笑)。
若い子が多いのかと思ったら、案外高齢者も多く、年齢層は幅広い。
皆パチパチと写真を撮り、美術館がなんだか一種のアミューズメントパークのようで、楽しそうだった。
◆◇◆ 村上隆の五百羅漢図展 Takashi Murakami : The 500 Arhats ◆◇◆
森美術館
東京都港区六本木6ー10ー1 六本木ヒルズ 森タワー53階



(展望台・東京スカイビュー、屋上スカイデッキは別料金)
【追記:2016年2月12日】
真由美さん宛てコメント欄に補足。
台湾の人気女性シンガー蔡依林(ジョリン・ツァイ)が、
自身の歌<大藝術家>の歌詞にも登場させた村上隆とツーショット。