【2015年/中国・韓国/112min.】
警察官候補生の小星は、学校にも行かず仲間と音楽にうつつを抜かす弟・梁聰を探し出し、無理矢理車に乗せ、家に連れ戻そうとするが、道中交通事故に遭い、梁聰は死亡、自身も視力を失ってしまう。3年後。目が見えなくても今や何でも出来るのに、警察への復帰の門を閉ざされ、落胆する小星。ある大雨の晩、乗ったタクシーで何かにぶつかったような大きな衝撃を感じる。何が起きたのか問い詰める小星に、運転手は「犬をはねただけ」と返し、その場を立ち去ってしまう。しかし、小星は耳にした音や状況から、タクシーが女性をはね、その被害者を乗せ逃走したと確信。早速警察に通報するが、目の見えない彼女の証言など、なかなか取り合ってもらえない。ただ一人、小星の鋭い観察力を見抜いたのは、ベテランの刑事・魯力。魯力は小星の証言の信憑性が非常に高いと感じ、彼女の協力を得て、共に捜査に乗り出す。間も無くして、林冲という青年が、懸賞金欲しさに警察に出頭。あの雨の晩、事の一部始終を偶然目撃したという林冲は、事件を起こした車はタクシーではなく、ゴルフだと主張。実際タクシーに乗っていた小星は、いい加減な証言をする林冲と対立してしまう。そんな林冲が、ある晩、何者かに襲われ、病院に運ばれる…。

安尚監督自身が、
中国人キャストによる中国語作品としてリメイク。

『ブラインド』は2014年に日本でも劇場公開され、DVDも出ているが、私は未見。
本当は、中国版リメイクの前に、元ネタを観ておきたかったのだけれど、間に合わなかった。
…だって、そもそも、この中国版リメイクが、日本に入って来るとは思いもしなかったし、
仮に入って来ても、忘れた頃だと思っていた。
本作品が、現地中国で公開されたのは、2015年10月。
それから半年もしない内に日本公開なんて、中華電影としては異例の速さ。
物語は、自分が乗ったタクシーが女性をはねたと確信した盲目の元警察官候補生・小星が、
彼女の優れた観察能力を見込んだ刑事・魯力や、事件の第一目撃者だという青年・林冲と、
命をも脅かされる危険にさらされながらも捜査を進める内に、
このタクシーの事件が、最近世間を騒がせている女子大生連続失踪事件と接点があることを掴み、
謎の犯人や事の真相に迫っていく姿をスリリングに描くクライム・サスペンス。
タクシー運転手が起こした人身事故が、女子大生連続失踪事件に繋がっていくという物語だけなら、
あまり新鮮味が無いようにも感じるが、本作品は、その事件現場に居合わせた証人・小星が、
『見えない目撃者』のタイトル通り、“目”撃者でありながら盲人であるため、
彼女の証言と事実に誤差が生じ、捜査が難航したり、
逆に盲目ゆえ敏感になった他の感覚で、鋭く事件に切り込んでいくのが、ちょっと新しい。
さらに、過去に弟を亡くしている小星が、事件の第一目撃者として出頭してくる林冲という青年と、
最初こそ対立しても、次第に姉弟のような関係を築いていく様子も描かれる。
小星が弟を亡くしているというのは重要な要素で、(ここでは詳細は避けるが…)
ある事情から若い女性ばかりを狙うようになった犯人は、小星に自分の境遇を勝手に重ね、
“同病相憐れむ”と彼女を同じ運命に引きずり込もうと画策するようになるのだ。
主な出演者は、自分が乗ったタクシーが女性をはねたと証言する盲目の女性・路小星に楊冪(ヤン・ミー)、
懸賞金欲しさに事件の第一目撃者として出頭する青年・林冲に鹿(ルー・ハン/ルハン)、
小星の証言と彼女の能力を信じ、捜査に乗り出す刑事・魯力に王景春(ワン・ジンチュン)、
実は映画にもかなりの本数出演している楊冪だが、ドラマで見る機会の方が断然多いし、
“中国の北川景子”などと称されることもあるように、実力派というよりはアイドル女優の印象で、
特別良いと思ったことが無い。
今回本作品で見て、ガラリとイメージを覆された!楊冪サイコー!と絶賛はしないまでも、
「ああ、こういう抑えた演技もするのね」と、違う引き出しを見せてもらった気にはなった。
楊冪は、キャピキャピした女の子を演じている時より、
本作品のように幸薄い雰囲気の女性を演じている時の方が、女優として魅力的かも。
ドラマ出演時のようにバッサバッサのツケマで目を盛っていないだけでも新鮮。
K-PopアイドルユニットEXOの中国人メンバーとして頭角を現した鹿の人気は、EXOを脱退しても衰え知らず。
本作品が、意外にも早く日本で公開されたのも、鹿出演作だからに違いない。
本作品で演じている林冲は、物語前半は、いかにも“今どきの若い子”という感じで、
言動が時に奔放すぎて、イラッとさせられる事も無きにしも非ず。
でも、中盤から、素直で優しい一面が見えてきて、
結局「あら、案外イイ子じゃないの」と丸め込まれてしまいましたー(笑)。
役名が“林冲”なのは、とても気になる。
私と限らず、“林冲”と聞き、真っ先に<水滸伝>を連想する人はきっと多いはず。
なぜ、安尚監督は、この青年を“林冲”と命名したのだろうか。
本当は正義感が強く、真実を語っているのに、信じてもらえず、挙句、犯人から追われ、命まで狙われる青年を、
罠に嵌められ、何を言っても受け入れられず、流罪にされた上、
流刑地でまで命を狙われる悲劇のヒーロー林冲に重ねたの?
まぁ、楊冪も鹿も良いけれど、本作品が、もし彼らばかりをフィーチャーしたアイドル映画に終始していたら、
私の興味は半減していたに違いない。
王景春、朱亞文という中堅の実力派も配し、バランスのとれたキャスティングになっているのが有り難い。
特に、王景春扮するベテラン刑事・魯力のキャラクターが良い。
威厳のある渋い刑事というよりは人情派。やや俗っぽくもある刑事を、力の抜けた感じで演じている。
スリリンで張り詰めた空気の作品で、魯力刑事はちょっとした息抜きポイント。
本作品で見る王景春は、顔が角度によって、若い頃の財津一郎のようでもあった。
朱亞文は今回悪役。
朱亞文の演技云々以前に、扮する唐崢が、女性ばかりを狙うようになったり、
同類と見做した小星を執拗に追うようになる動機付けが、かなり強引と感じてしまった。
あと、終盤、唐崢の本業が美容整形医と判明したので、
例えば、拉致した女性たちを全て自分の妹と同じ顔に整形していたとか、
何か職業を事件に反映させた脚本になっているのかと思いきや、
ただ単に“職業:美容整形医”だったのも、若干肩透かしを食らった気分。
だったら職業なんて弁護士でも芸術家でもテレビプロデューサーでも何でも良さそうなものを、
当たり前のように美容整形医に設定している点に、“元ネタは韓国”を再認識。
最後に、物語の中でキーにもなっている曲
<蟲兒飛>を。

元々は70年代の童謡で、その後、映画『風雲ストームライダーズ』(1998年)の挿入歌として
鄭伊健(イーキン・チェン)が歌うなど、あちらでは結構親しまれている歌らしい。
この『見えない目撃者』の中では、小星の弟で、バンドをやっていた梁聰の持ち歌という設定で登場し、
林冲役の鹿が、張淇(ジャン・チー)、劉思超(リウ・スーチャオ)と共に歌うライヴシーン等で使われている。
(この歌が、物語後半、小星の弟・梁聰のバンドのヒット曲として出てきた事で、
亡き梁聰が意外にも名の知れた人気ミュージシャンであった事が判明。
だったら、なぜ親からもらった学費で楽器を買うなんてセコイ事をして、姉から怒鳴られていたのだろう??
梁聰が、こんなヒット曲をもち、ファンが沢山いて、大きなコンサートも開ける有名ミュージシャンだったら、
姉が「こんな不良仲間とくだらないバンドなんかやる事は今後一切許さない!」なんて罵倒しない気が…。)
よくよく考えると、物語に“無理矢理”と感じる部分が結構あり、脚本がやや雑にも思えたが、
そういう細々した事を一時忘れるくらい、終始ハラハラさせられ、案外単純に楽しめた。
近年、中国で映画を撮る韓国人監督が激増しているけれど、
韓国映画では個性を発揮している監督でも、中国映画となると没個性になり、
正直なところ、秀作にはなかなか出会えない。なんかただの便利屋監督になってしまっているようで、
「こんなフツーの娯楽作だったら、誰が撮っても一緒じゃないか」とガッカリさせられる事しばしば。
しかし、安尚監督が撮ったこの『見えない目撃者』は、ちゃんと中国映画になっているにもかかわらず、
韓国犯罪モノの雰囲気もそこそこ保たれており、中韓コラボの珍しい好例と思えた。
(ただ、この手の香港映画との違いは?と考えると、う~ん、よく分からない。大差ないかも…。)
それにしても、鹿って、私が想像していた以上に日本でも人気があるようだ。
私がこの映画を鑑賞したその日、映画館は若い女の子だらけ。
それも、見たところ女子中学生くらいの、まだあどけない女の子たち。
私の近くに居た女の子なんて、鹿が歌うシーンで、感極まったのか、タオルを顔に当て泣いていた。
さらに、会場の出入り口附近には…
“日本鹿連合”なる組織(ファンクラブ?)から贈られた
お花が。コンサートやイベント会場ならともかく、

映画館のフツーの上映にファンから贈られたこのようなお花が飾られているのは、今回初めて見た。
鹿本人も、日本でこんなに愛されているって、知っているのでしょうか。
映画館からは、入場の際に、私まで鹿のポストカードをいただいてしまいましたヨ。(画像右)
画像だと分かりにくいけれど、これホノグラムになっていて、タダで頂けるポストカードとしては豪華。
そんな鹿クンは、この先、俳優としての活動に益々力を入れていきそう。
ビッグネームからのお誘いも絶えず、大プロジェクトでは、張藝謀(チャン・イーモウ)監督初の3D英語作品、
『長城~The Great Wall』が2016年度末、中国で公開予定。
これは、張藝謀監督作品だし、マット・デイモンやウィレム・デフォーも出演しているので、
日本にも上陸する可能性高め?
私が、鹿クンのお力に期待しているのは、彼も出演すると囁かれているもう一本の作品、
王家衛(ウォン・カーウァイ)がプロデュースする、作家・張嘉佳(チャン・ジャージャー)の初監督作品、
『擺渡人~The Ferryman』の方。
これ、梁朝偉(トニー・レオン)、楊穎(アンジェラベイビー)、そして、我が愛しの金城武出演作なので、
鹿クン、どうぞ日本の少女たちをメロメロにし続け、
私が日本のスクリーンで金城武を拝める運びになるよう、お力を発揮してくださいませ。
頼みます。

(私個人的には興味の無い鹿クンだけれど、彼を通じ、中高校生くらいの子が、既成のイメージに囚われず、
中国語や中国人をすんなり受け入れているのは、単純に良い事だと思う。文化の力は偉大です。)