自ら興した周王朝の頂点に君臨し、15年の歳月が過ぎた武皇帝は、宰相・張柬之らに退位を迫られ、ついに太子・李顯への譲位を決める。すでに高齢で、人生の終着点に近付きつつある彼女の胸に去来したのは、愛憎と波瀾に満ちた今では懐かしいばかりの日々。唐の貞觀11年(637年)、14歳の武如意は、才人の位を与えられ、時の皇帝・太宗李世民の後宮に入る。早速四妃とのお目通りを許されるが、身分の卑しい商人の娘と蔑まれ、悔しい思いをする如意。さらに、身重の劉賢妃が、勝手に転んでおきながら、楊淑妃に罪を擦り付ける瞬間を目撃。女たちの熾烈な争いを目の当たりにし、この場所で生きていくことの厳しさを思い知るのであった…。
2016年7月半ば、
チャンネル銀河で始まった大陸ドラマ『武則天-The Empress-~武媚娘傳奇』が、

11月初旬、全82話の放送を終了。
日本上陸を楽しみにしていたドラマではあるのだけれど、
いかんせん、『琅琊榜(ろうやぼう)麒麟の才子、風雲起こす』のBS放送と時期が重なってしまったため、
やっつけ仕事的に観る羽目に。
ハッキリ言って、このドラマにはハマり切れなかったのだが(…もっとハッキリ言うと、退屈だった)、
引っ掛かる部分やツッコミ所は満載で、あれやこれや言いたい事だらけ。
そこで、ハマったドラマ『琅琊榜』並みに、以下のような3部構成で感想をブログに掲載。

武則天についてのあれこれ、ドラマ全般について
キャストについて
衣装や音楽などについて

『武則天』大好き♪で、気分を害されたくない方は、読まないことをお勧めいたします。
★ 概要
范冰冰(ファン・ビンビン)が、主演のみならず、プロデュースも手掛けた“武則天ドラマ”の決定版。
范冰冰の個人事務所・范冰冰工作室がドラマを制作するのは、
2007年の『胭脂雪~Rouge Snow』、2009年の『ラストロマンス 金大班~金大班』に続き、本作が3作目。

これまでに手掛けた代表作は、『大漢天子~大漢天子』。
総監督ではないけれど、かの『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』にも関わっているようだ。

『回家/彼岸1045~Home』の脚本家として頭角を現し、有名になったようだが、
その『回家』が2013年、第48回金鐘獎の脚本賞にノミネートされた際に名が挙がった脚本家は、
映画『トロッコ』やドラマ『一把青』等で知られる黃世鳴(ホアン・シーミン)ら4名で、潘朴の名は見当たらない。
潘朴は“『回家』の脚本家チームの一人だった”という解釈が、妥当だろうか。
とにかく、歴史モノが得意な30代半ば新進気鋭の脚本家であることは間違いないようだ。
★ 物語
物語は、ズバリ、武則天(武媚娘)を描く伝記ドラマ。
武則天(624年-705年)は、日本では一般的に“則天武后”の名で知られる中国史上唯一の女帝。
唐朝に仕える武士彠と楊氏の間に生まれた次女。本名不詳。別名、武照、武瞾。
武則天を指す呼び名は多くあるので、彼女の名前についてい、以下、参考までに。
637年、14歳で唐太宗・李世民の後宮に入り、五品才人に封じられ、“武媚”の名を賜る。
二人目の夫、高宗・李治の崩御に伴い、息子の中宗・李顯が新皇帝に即位し、称制を行いだした頃、
“空”の上に“日”と“月”を配した“瞾”という字を自ら創り、“武瞾”と名乗るようになる。
(本ドラマでは、元の名を“武照”、字を“如意”といい、李世民から“武媚娘”の名を賜り、
高宗・李治の最晩年に意を決して、自らに“武瞾”の名を与えるという設定に。
なお、タイトルにもなっている“武媚娘”は、後世に誤って伝えられ、定着した名で、史実では“武媚”。)
私は、このドラマ『武則天 The Empress』が現地で話題になった頃、いつかそれを観ようと思い、
取り敢えず、
外山軍治の<則天武后~女性と権力>を読んで、武則天について予習。

しかし、お目当てのドラマがなかなか日本に入って来なかったため、
その前に、以下の3本の“武則天モノ”を立て続けに鑑賞。
“宮女のまぶたに水色のアイシャドー”という時代劇に有るまじき悪趣味メイクにはドン引きさせられるが、
実は要所要所で史実をきちんと踏まえているため、唐朝の歴史を学ぶには悪くないドラマ。
但し、武則天は中盤で崩御。その後物語の比重は、武則天の息子、中宗・李顯の妻、韋皇后に移っていくので、
“武則天モノ”と捉えると弱い。
邦題に『則天武后』と掲げているが、武則天は主人公ではなく、
賀蘭心兒という架空の人物が次々と起きる難事件を解決していく推理ドラマ。
物語に史実はあまり絡んでおらず、ほぼフィクションなので、歴史を学ぶには不適合。
于正(ユー・ジョン)プロデュースのドラマらしく、作風は非常に軽々しい。
武則天が宮中に初めて上がる14歳から、周の女帝に即位する67歳までを事細かに網羅。
史実として言い伝えられている事を忠実に描いているので、
伝記本を読む代わりにこのドラマを観れば、武則天に関する基礎知識がほとんど学べる。
このように、それぞれに違いのある“武則天モノ”。
では、本ドラマ『武則天-The Empress-』と他作品との違い、物語上の特徴は如何に?

武則天が真に権力を掌握する後半生は、駆け足で説明される程度。
つまり、本ドラマで重要なのは、
女性である武則天がいかに大国のトップにまで登り詰めたかというサクセス・ストーリーではない。
二人の皇帝、太宗・李世民と高宗・李治と交わした情に重きを置いた
ラヴ・ストーリーという印象。


李世民が崩御するのは第53話なので、全82話の内、実に6割以上を占めている。
一般的には、勝ち気な武則天は李世民のお好みに合わず、煙たがられていたが、
気の弱い息子・李治のタイプにはドンピシャで、この李治の時代から頭角を現していくと認識されている。
李世民時代には重要視されていなかったため、当然当時の武則天に関する記述は多く残されていない。
つまり、本ドラマ前半は、李世民時代の中国史を背景にはしていても、
武媚娘に関する物語はほぼ全て想像で描かれたフィクション。
★ 有名エピソードの解釈
フィクション色の濃いこのドラマ。
史実として語り継がれている武則天のエピソードの内、有名なものを3ツだけ取り上げ、
このドラマではどのように描かれているのかをチェック。
【エピソード
】

太宗・李世民の崩御に伴い、感業寺に送られた武媚娘だが、
亡き父帝のお参りにやって来る李治と寺で逢瀬を重ね、御懐妊。
李治は、それを言い訳に、武媚娘を還俗させ、自分の後宮に迎い入れる。
その頃、李治の寵愛を受けていた蕭淑妃を蹴落とすのに丁度よいと考えた王皇后も、武媚娘受け入れに同意。
こうして再度入宮した武媚娘は、李弘を出産し、二品昭儀の地位を与えられる。

感業寺に送られた武媚娘が、親しいだけで、何の恋愛感情も無かった李治の子を、いつの間にか妊娠。
子の本当の父が自分であるとは思いもよらない李治は、武媚娘が先帝の遺子を身籠ったと信じ、
彼女を還俗させ、“先帝の子の母”として再び皇宮に迎い入れるが、
出産前に、何者かの陰謀で、おなかの子は流産してしまう。
ここ、このドラマで最も辻褄が合わず、不可解なくだり。
確かに李治は、ずっと武媚娘に想いを寄せてはいたが、
父帝の寵姫に手を出すなど畏れ多くて出来ないという雰囲気。
武媚娘自身、李世民に対する深い愛情と尊敬の念に変わりはなく、
ましてやその李世民の息子で、恋愛対象外の李治などと、
出家した身で関係を持つなんて考えも及ばないという感じ。
武媚娘の妊娠は、あまりにも唐突な展開なので、裏に隠されたその経緯は、
その内、タネ明かしされるのかと思いきや、その話はそれっきり封印され、視聴者にモヤモヤだけを残す。
いくら何でも不自然なので、日本放送版はどこかカットされているのか?と疑い、ちょっと調べてみたら、
どうやら、本来の脚本では“武媚娘は李世民の子を宿していた”
という本作オリジナルの解釈で描かれていたらしい。
ところが、これに噛み付いてきたのが、大陸のメディアを管轄するお馴染み廣電總局(広電総局)。
「観衆に誤った歴史を伝える」とし、武媚娘が李治の子を身籠ったと史実に即した作り替えを命じたとのこと。
あの不可解な展開、辻褄の合わない武媚娘御懐妊は、
史劇にフィクションを盛り込み、歴史を湾曲することを許さない廣電總局からのお達しに応えた
苦肉の策だったのですねぇー。
【エピソード
】

還俗して李治の後宮に入った武媚娘は、最大のライバル王皇后を蹴落とすため、
すでに二人産んでいた子の内、女児の安定公主を自らの手で殺め、王皇后に濡れ衣を着せる。
王氏は、皇后を廃され、死罪。

王皇后は、憎らしい武媚娘を苦しませたくて、彼女の愛娘・安定公主を殺そうと考えるが、
安定公主の可愛らしいお顔を見て、殺害を思い留まり、何もせずに部屋をあとにする。
その後、その部屋に入って来た李治の妹で、武媚娘の大親友でもある高陽公主が、安定公主を殺害。
王皇后は、不運にも、その場に手巾を落としていたため、安定公主殺害の犯人に仕立て上げられてしまい、
皇后を廃され、死罪。
【エピソード
】

病気がちにもかかわらず、女性関係は華やかだった高宗・李治。
武媚娘の実姉である武順・韓國夫人と、その娘、つまり武媚娘の姪っ子・賀蘭敏月まで御手付けに。
宮中では、武媚娘の次男・李賢が、李治と韓國夫人の間にできた子という噂まで流れたほど。

ドラマ後半、“武媚娘の母・榮國夫人が、韓國夫人の件で、武媚娘を誤解し、憎んでいる”という話が
台詞の中に唐突に出てきて、そういう肉親の問題で武媚娘が心を痛めているかのように描かれはするが、
当の榮國夫人も韓國夫人も登場することは無く、何が原因の誤解なのかも明かされない。
その後、武媚娘の姪っ子・賀蘭敏月が突然叔母・武媚娘を訪ね皇宮に登場。
実は、“母・韓國夫人は武媚娘に死を迫られ止む無く死んだ”との誤解から、復讐を胸に誓っての入宮。
日々忙しく、お疲れ気味の李治は、姪っ子・賀蘭敏月の無邪気さに心癒され、
やがて関係をもち、彼女を“魏國夫人”に冊封。
賀蘭敏月は、李治の寵愛を盾に、計画通り、叔母・武媚娘への復讐を着々と進める。
…が、後に、賀蘭敏月の台詞から、李治が彼女と関係をもったのはたったの一度きりであったことが判明。
本ドラマでの李治は、あくまでも誠実な人物で、心から愛しているのは武媚娘だけ。
女房の肉親にまで手を出すほど下半身がダラシないゲスな男とは描かれていない。
★ 毒殺
宮廷を舞台にした闘争劇に暗殺は付き物。
本作は、悪女と名高い武則天を主人公にしたドラマではあるが、
その武則天を正直で善良な人物として描いているため、殺害率も取り立てて高い方ではない。
武則天自身が、本気で殺意を抱いたのは、初めての娘・安定公主を殺された時と、
太子に即位した長男・李弘が殺された時の2回だけ。
権力への執着や嫉妬からではなく、自分のおなかを痛めて産んだ子の復讐だから、
視聴者も、善人・武則天が抱く殺意を許すという計算か。
とにかく、武則天自身が本気で殺意を抱いたのはたったの2回でも、劇中、暗殺はそれなりに行われている。
ひとつ新しいと思ったのは、毒殺の表現。
以前、こちらの“中華ドラマあるある”にも記したように、
大陸時代劇では、毒酒を飲まされると、口の脇からひと筋の血を流し、死に至るというパターンが多い。
ところが、このドラマで毒酒をあおった被害者は…
口のみならず、
目や
鼻からも血を流して死亡。


おぉ~、大陸時代劇の撮影現場で、血のりの消費量は増すばかり!
これ以上の事をやろうとしたら、あとはもう耳からも血を流すしかないでしょー。(※)
顔中の穴という穴、もー全部使っちゃって!
(※訂正:よく見たら、すでに耳からも流血していた。…笑
あとはもう毛穴くらいしか、血を吹き出せる場所が残っていない。)
個々の登場人物に関しては、